■問題のゴールの裏にあった伏線
だが、ルキアンとクルークスのプレーを単なる「アンフェアな行為」と断罪することはできない。2人のプレーには「伏線」があった。
試合開始からわずか1分間(記録上は2分)で名古屋が先制した。右からFW重廣卓也が入れたボールを中央に走り込んだ稲垣がスライディングしながらシュート。これは右ポストに当たったが、右から上がってきたDF森下龍矢がゴールに叩き込んだのだ。だがこのとき福岡ゴールにGKはいなかった。
その前のプレー、名古屋のMF相馬勇紀が自陣左奥から福岡守備ラインの背後に長いボールを送り、そこに重廣が走り込んだ。マークするのは福岡DF宮大樹。そこに福岡GK永石拓海が出てくる。ペナルティーエリアを出てヘディングでクリアしようとする永石。しかしボールを振り返りながら走る宮は気づかない。ヘディングでクリアしようとした永石の頭に宮の頭部が激突し、2人とも倒れた。
重廣はこの衝突を避け、ペナルティーエリア左にこぼれたボールを単独で追った。稲垣がシュートしたときにも、森下が決めたときにも、永石と宮はペナルティーアークより先に頭をかかえて倒れたままだった。
中村主審は、もちろん、永石と宮の状況に気づいていた。しかしファウルがあったわけではなく、重廣がすでに決定的なチャンスをつくろうとしていたので、笛を吹くタイミングを失った。得点が決まるとすぐに笛を吹き、担架と福岡のチームドクターを呼んだ。その横では、名古屋のレオ・シルバが救急隊を呼んでいた。