■浦和の選手が浮き足立った理由

 満員の駒場スタジアムや埼玉スタジアムで、圧倒的なサポーターの声援を受けながら、浦和はホームで圧倒的に強かったわけではない。ある時期までは、手痛い敗戦を喫したことのほうが多かった。浦和の選手たち自身が、サポーターの声援に応えなければならないとプレッシャーを感じるなど、声援が重荷になっていたのだ。それが動きを悪くさせ、サポーターのパワーをそのまま勝利に結びつけられない原因となった。この日、埼玉スタジアムのピッチに立った浦和の選手たちは、まさにそのころの選手たちにそっくりだった。

 だが幸運なことに、この試合には飲水タイムがあった「相手が前からくるなら、裏を狙ってみよう」というロドリゲス監督のアドバイスで、27分にFW小泉佳穂が左ウイングの大久保智明を走らせたころから流れが変わった。ようやく浦和の選手たちが落ち着き、本来の動きができるようになる。そして32分にFW松尾佑介のクロスをMF伊藤敦樹がヘディングで決めると、以後は浦和の一方的なペースとなった。終盤に名古屋が反撃しようとしたが、浦和は落ち着いてパスを回し、突破し、シュートを放って3-0で勝ち、準決勝に進んだ。

 「アンフィールドみたいだ!」―。試合後、ロドリゲス監督がそう話したと、浦和の西野努テクニカルディレクターがSNSで明かした。浦和のサポーターのパワーは、最初は選手たちの足かせになったかもしれない。しかし最終的には、大きな後押しの力となり、最後まで緩まずに攻撃を続け、終盤に3点目を奪うという理想的な勝利に導いた。

 足かせになったのは仕方がない、2019年の「満員の埼スタ」を知っている選手は、この日の浦和の先発にはDF岩波ひとりしかいなかったからだ。ロドリゲス監督にしても、テレビで見たことしかなかった。

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