■「サッカー部は難しいところ」
「サッカー部か。あそこは難しいよ」
そう言ったのは、当時仲が良かったIくんだった。彼は中学2年までサッカー部で、3年になったとき山岳部に変わっていた。
「何が難しいかって? サッカー部はサッカー・クレージーばかりだからだよ。サッカー・クレージーじゃないと、とても居にくいんだ」
そんな話を聞いて迷っていたとき、私の手を引っぱってくれたのがTくんだった。
「サッカー部にはいりたいんだって? 歓迎するよ。いっしょにやろう」
少し反っ歯ぎみの彼が笑顔で言ってくれたおかげで、「サッカー・クレージーなどには絶対ならないだろうが、ただ広いグラウンドで思い切り走りたいだけ」の私は、サッカー部にはいる決意がついた。Tくんは、私をサッカーに引き込んだ最初の「恩人」だった。
それまでにサッカーをした経験などまったくなかった。中学3年の秋という中途半端に時期にサッカーを始めることができたのは、私の学校が中高一貫、6年制の私立学校だったからだ。私はさっそく入部届けを出し、最初は中学1年生のチームに入れられて基礎技術から練習し始めた。
2カ月間も中学1年生とやっていると、体力は見る間についた。ボールを止めたりけったりは、なかなか進歩しなかったが、怖いもの知らずの私は、11月には中学3生のチームに入れてもらって練習をするようになった。いちばんヘタなのは当たり前なので、ヘタなことなど気にせず、ただ一生懸命にボールを追うだけで楽しかった。