■鬼コーチが発した最上級のほめ言葉

 高校1年生を迎える前の春休み、私たちは高校生のチームにはいって練習するようになった。中学3年生チームのコーチはMさんという高校2年生(私の学校では、高校2年生が中学1年生から中学3年生までの指導に当たっていた)だったが、高校のチームにはいると、コーチはAさんという当時大学生のOBとなった。彼は当時から「プロのサッカーコーチになる」と公言しており、その勉強の一環もあって私たちを教えているのだと語っていた(プロのサッカーコーチなど当時の私たちには夢のような話だったが、彼は実際にそうなった)。

 Aさんは「指導者は選手の前では笑顔など見せない」というモットーの持ち主で、ともかく怖かった。春休みには毎日学校のグラウンドで午前午後の「通い合宿」のような練習があったが、私は苦しくて仕方がなかった。

 その春、Aさんは私たちにそれまでとは違うヘディングを教えた。私たちがそれまで教えられていたのはボールを突き上げるようなヘディングだったのだが、それをデットマール・クラマー・コーチが日本にもちこんだばかりの体を弓のようにそらせてボールを叩くヘディングに変えさせたのだ。3年間の練習でしみついてしまっているヘディングを変えることはなかなか難しかったようだ。仲間たちはそのヘディングを覚えるのに悪戦苦闘していた。ところが…。

 「パーフェクト!」

 滅多に選手をほめないAさんが、なんと最上級のほめ言葉を発したので、みんなが驚いた。気がつくと、それは私のヘディングを見たときではないか。もう1本。

 「完璧だ」

 もちろんパーフェクトという英語ぐらい知っていたが、今度は親切にも和訳してくれた。

 まだ技術的に「ゼロ」に近かった私。古いヘディングが身についていない分、素直に新しいヘディングをすることができたのだ。サッカーを始めておよそ半年、ほめられたのは初めてのことだった。それもみんなが鬼神のように恐れているAさんから。私は有頂天になった。そしてこの瞬間に、私は大きくサッカーに引き込まれていくのである。

(2)へ続く
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