■息子が届けた朗報
もちろん、ドン・リカルドは「コネ」で大会の広報担当から取材パスやピッチに降りるビブスを得ていたわけではない。彼は大会の公式カメラマンだったが、れっきとした『エル・グラフィコ』の写真スタッフのひとりでもあった。そしてこの試合では『エル・グラフィコ』に与えられた10枚のビブスの1枚を着る権利を、息子のリカルドとともに与えられていた。リカルドはこの年27歳。『エル・グラフィコ』の気鋭の若手だった。
決勝戦の翌朝、ドン・リカルドは自宅から遠くない『エル・グラフィコ』の編集部を訪れた。彼がはいってくるのを認めた息子のリカルドが、割れるような笑顔を見せ、両手を広げてドン・リカルドを抱擁した。そしてゲラ刷りのページを手にして「パパ、これを見たかい?」と聞いた。そこには、前日、朝9時からリバープレート・スタジアムに詰めて取り続けたドン・リカルドの渾身の1枚があった。そしてそこには「魂の抱擁」のタイトルがつけられていた。