■松本は「割り切れなかった」
J2残留争いが予想もつかない展開になるのは、十分に考えられることだった。前のシーズンの成績が参考にならないのは、J2リーグの歴史を見れば明らかだからだ。
それにしても、である。
松本山雅FCが最下位に沈んだのは、予想外だったと言っていい。
コロナ禍で行なわれた昨シーズン、松本はJ2でクラブワーストの13位に沈んだ。しかし、柴田峡監督の就任後は9勝8分4敗と白星を先行させた。守備を安定させた20年シーズンの後半戦を受けて、オフの移籍市場では鈴木国友(北九州)、ルカオ(金沢)、山口一真(水戸ホーリーホック)と、J2の他チームでプレーしていたアタッカーを迎え入れた。昨シーズンのJ2で山口は15点、ルカオは10点、鈴木は6点を記録している。3人合計で31得点だ。
昨シーズン終盤に大ケガを負った山口は後半戦から復帰してくる見込みだったが、攻撃力をアップさせてJ1昇格争いに食い込んでいくとの目算だったのだろう。柴田監督は「勝点84と得点84」を目標に掲げた。1試合2点取る、ということだった。
シーズン初勝利は6節のブラウブリッツ秋田戦で、スタートダッシュはかけられなかった。それでも、12節終了時点は4勝4分4敗の五分とした。しかし、13節からは白星をあげられず、15節から19節までに4連敗を喫し、19節で降格圏に沈む大宮アルディージャと引分けた。ここでフロントは、柴田監督を解任し、名波浩監督を招へいする。布啓一郎監督を途中解任した20年に続いて、2シーズン連続でシーズン途中でのリセットを強いられた。
この時点の成績は、4勝7分8敗の17位だった。京都サンガF.C.やジュビロ磐田とは勝点20差以上をつけられているが、中位に食い込んでいくのは十分に可能だっただろう。かつて磐田をJ1へ昇格させた名波新監督の手腕に、大きな期待が寄せられた。
ところが、名波監督の初陣はFC琉球に0対4で大敗し、就任から1勝3敗で東京五輪開催に伴う中断を迎える。その間にストライカーの伊藤翔と、前年まで在籍したブラジル人MFセルジーニョを呼び寄せた。それでも、チーム状態は上向かない。
とくに残留争いのライバルとの6ポイントマッチで、ことごとく勝点3を逃したのは痛かった。終盤まで残留争いの当事者だった8チームとの2度目の対戦では、ギラヴァンツ北九州にしか勝っていない。途中加入の伊藤は4得点を記録したが、ルカオはわずか4試合、山口は13試合の出場に止まり、どちらも無得点に終わった。
36得点はリーグで4番目に少なく、71失点はリーグワーストである。勝ちパターンは最後まで見つけられなかった。
J2残留を最優先に考えるなら、割り切った戦いかたを選ぶこともできただろう。しかし、名波監督の就任当時は残留争いに本格的に巻き込まれていたわけではなかった。2度のJ1昇格を経験しているクラブだけに、自分たちのスタイルで勝点を積み上げ、苦境を脱してほしいとの願いも寄せられていたに違いない。そうした状況に縛られ、浮上のきっかけをつかめないままシーズンが終わってしまった印象がある。名波監督のもとでの成績は、3勝6分14敗に終わった。