■手練れはウズベキスタンにいた

 そういう意味で、「こいつはなかなかやるな」と感心したのは、2009年にワールドカップ・アジア最終予選でウズベキスタンに行った時に遭遇した詐欺師の演技力でした。岡崎慎司が泥臭く押しこんで決勝ゴールを決めて、予選突破が決まった試合です。

 手口はこうです。道を歩いていると、前を歩いている人が道端に落ちている財布を拾うのです。そして、中身を見ると大金が入っているというわけです。彼が、僕の方をチラリと見ます。「あ、見られた!」といった顔をして、「どうだ、山分けしようじゃないか」と持ちかけてきます。

 それに付いていったら、タイミングを見計らって、その財布の落とし主だとか警官だとか称する仲間が現われて、「お前たちの持ち物を検査する」と言って、そこで現金とか金目の物を抜かれてしまうという筋書です。

 僕も、この時は一瞬騙されそうになりました。人気のない方向に歩き出したところで、「これはヤバそう」と思ったので難を逃れたわけですが……。

 なんで、騙されそうになったのかって? 「しがないフリーランスとして大金に眼が眩んだ」という現実的な理由もあります。ですが、何と言ってもその詐欺師の演技力というか“間合い”の取り方が絶妙だったのです。

 前を歩いている犯人(自称イラン人とか言ってました)が財布を拾うなんとも自然な動き。そして、後から歩いてくる僕との距離感と“間”の取り方、それが絶妙なのです。本当に偶然財布が落ちていたような動きで財布を拾ったところに、ちょうど運よく(というか、運悪く)僕が近づいてきたので困って「山分け」を提案する……。ちょっとでもタイミングが悪かったら、不自然な動きに警戒心が湧いてくることでしょう。

 世界のプロの犯罪者の方々に申し上げたい。他人を騙して金を取るのなら、これくらいの演技力を身に着けてほしい、と。

 そして、世界のプロのストライカーの皆さんにも申し上げたい。DFと副審を騙して点を取りたいのなら、絶妙の“間合い”が必要ですよ、と(もっとも、最近の副審はVARという奇妙な武器を持っているのでなかなか騙されないようですが)。
 

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