■川崎の強力なパス回しへの免疫が発生
さらに、対戦相手の変化もある。ことしの前半まで、川崎の正確無比なパス回しに翻弄されると、相手チームはバランスを崩し、失点を重ねていた。しかし夏以降の試合を見ると、どのチームも、川崎から早い段階でボールを奪い取るのが難しいときにはばたつかず、しっかりと中央を固めるという考え方になってきている。川崎の圧倒的なパスワークに、相手チームが驚かなくなったように見えるのだ。
その結果が、8月のJリーグ5試合での無得点試合2試合、総得点5という数字に表れている。7月までの22試合では、無得点試合なしで総得点53だった。1試合平均2.41という数字は、鬼木監督が「1試合3得点を目指している」と語るにふさわしいものだった。それが1試合1点にとどまっている要因は、「川崎対策の戦術」というより、相手選手たちの慣れ、いわばメンタルにできた「免疫」のようなものではないか。
主力の流出、故障者続出、過密日程、さらに相手の「慣れ」と、いま、川崎の前にはいくつもの困難が重なっているが、最大の難問は「CB問題」だ。現状では、これまでの試合にからんでいたCBは山村ひとりしかいない。ここは、右サイドバックとしてプレーしている山根(湘南では3バックの右をやっていた)、MFでプレーしている塚川孝輝、シミッチなどを総動員して乗り切るしかない。三笘が移籍し、旗手が離脱中とはいえ、攻撃陣にはMF家長昭博、MF脇坂、FWレアンドロダミアン、FW小林悠などJリーグ屈指の選手たちがそろっており、チームのバランスさえ取れれば、いつでも相手ゴールを脅かすことができる。
私には、この9月が川崎というチームの「正念場」のように思える。今月いっぱい踏んばれれば、故障者が戻ってくるだろうし、新戦力も大きな力になっていくだろう。ここをチーム一丸で何とか乗り切れば、Jリーグ2連覇、そしてこれまでどこも達成できなかったACLとの2冠、天皇杯を合わせての3冠、さらには9月5日の浦和との準々決勝第2戦で勝てば、ルヴァンカップを含めての「4冠」という空前絶後の偉業も見えてくるはずだ。
そこまでいかなくても、この苦境を乗り切ることは、川崎フロンターレというクラブに新しい価値観をもたらし、これから先10年、20年と続く「伝統」の重要な柱になるはずだ。