■ノックアウトステージでは選手間の呼吸が噛み合わないシーンが多くなった

 ライブで試合を観たあと、もう一度観直しています。

 日本はいつもよりも布陣が間延びをしています。攻守にコンパクトさを保って距離感を狭くして戦うのが日本の生命線ですが、僕の感覚ではメキシコ戦はこれまでよりも3ラインの間隔が広い。間にボールを入れられやすく、そこに対して厳しくいけずに前を向かれているシーンも多かった印象です。

 またノックアウトステージに入ってからは、ボールを失う回数が多かったと感じます。点を取らないと勝てないという焦りがあったからなのか、疲労なのか。「いつ」走る、「いつ」出すという選手間の呼吸が、グループリーグでは噛み合うシーンやプレーが多く見られましたが、ノックアウトステージでは噛み合わないシーンが多くなっていました。

 相手のプレー強度が高くなった、守備戦術がしっかりとしていたからというのもありますが、ピッチ上に色々な思いが混在していたことも理由にあげられると思います。

 日本の攻撃の場面では、ボールを失ってでもいいからリスクのあるプレーをしてゴールに向かう選手、ここはボールを大事にするべきだから回したほうがいいと思う選手、このスペースを突いたらチャンスだと思ってリスクを背負って走る選手、そこは無理をしないで大事にしたいと思う選手といったように、様々な考えがピッチ上から読み取れました。

 誰もが頑張っているし、ゴールへ思惑を持って向かっているけれど、ベクトルが合わなかったというか、個々のイメージがゴールに向けて集約されず、一本の線になかなか重ならなかった。イメージが共有されてなかった印象でした。

 そういう意味でも、三笘の投入は効果的だったと思います。この試合に関して言えば、質的優位で局面でイニシアチブを握った彼がどうプレーをするのかで、周りが動ける。相手も三笘を意識して2枚で対応し、重心をかけているので、彼が左にいる時点で攻守の構図が決まるというか、チームの攻め筋が一本通ったのです。

 当たり前ですが、「対面のDFをひとり抜き去ることができる」という能力は、サッカーにおいて大きな武器なのだなと再認識しました。

 彼の突破は再現性が高い。ドリブルで得意の形へ持ち込んで、相手を抜き去ることができるし、抜かれることを気にして相手DFが距離を取ればパスも出せます。三笘が持つと周りの選手も思い切って動き出せるし、そこに合わせてパスも出せるので連動できる時間とスペースが生まれるのです。

 4-3-3のシステムで相手を押し込んだなかで三笘が左サイドの高い位置を取れば、周りの選手は前向きにサポートできる。三笘が深くまで運んでくれれば相手は下がるし、そうなれば相手を見てプレーできます。三笘の横に味方がいるだけで彼の選択肢は増え、そのなかから最善のプレーを選択する力が彼にはあります。三笘の選択肢が増えることで相手DFは複数の対応パターンを想定しなければならず、判断に悩んで対応が遅れます。

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