日本が準決勝に進出した。7月31日の準決勝で、ニュージーランドをPKの末に下した。0対0のまま突入した“11メートルの心理戦”で、日本のGK谷晃生が勝利につながるセーブを見せた。
苦戦の要因はひとつではないだろう。ニュージーランドが戦術的に洗練されたチームだったことも、結末までの時間を長くした。
川崎フロンターレをJリーグのトップクラブへ押し上げ、日本代表としてW杯のピッチに立った中村憲剛氏は、この試合をどのように見たのだろう。好評連載の第4弾も、さすがの着眼点でゲームの真相を解き明かしてくれた。サッカー批評Webでは、東京五輪の日本代表の全試合を中村さんの解説でお届けする。
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ニュージーランドが攻撃でロングボールを使い、守備ではタイトなマンツーマンとリトリートをすることで、日本の選手の距離感はどんどん広がっていきました。
前線がプレスにいくことでロングボールを蹴られ、蹴られることで最終ラインは下がる。その時点で日本の陣形は広げられてしまっている。ラインの上げ下げをこまめにやっていても、すべてを蹴らせないのは不可能で、それがジャブのように効いて間延びさせられてしまう。それならばと、プレスにいかなければ、コンパクトさは保たれますが、ボールを握られてパスをつながれてしまう。
ロングボールを回収して攻めようとしても、CBとダブルボランチの4人がマンツーマンでマークされ、リズムをうまく作れない。ここまでの3試合ではその4人の誰かが空く、という仕組みをチームで作っていたのですが、ニュージーランドには完全に同数にされました。
僕も経験がありますが、マンツーマンで監視されると、マークを外すためにいつも以上に動きの幅が大きくなったり、逆に小さくなったりして、適度なポジショニングを取りにくくなるので、パスワークの距離感やテンポが悪くなり、どんどんパスを受けにくくなっていきます。
さらに、あれだけロングボールを蹴られると、選手同士が近づきたくても近づけない。つまりは、攻守でコンパクトさを作れない。ニュージーランドがロングボールとマンツーマンマークを徹底してきたことにより、日本の攻撃にリズムを生んでいた「自分たちの距離感」が必然的に分断されたのです。
後半はニュージーランドがケガによる選手交代で、3・3・2・2から4・4・2システムに変えてきました。中盤はダイヤモンド型です。
そこからさらにパスワークを寸断され、コンビネーションで崩すのは難しくなりました。そんななかでも81分、堂安律のクロスから上田綺世が決定的なシュートを放ちました。個人の仕掛けによっていくつかのチャンスを作り出しましたが、相手がシステムを変更したあとは地上戦でも数的不利が続き、守備もハマらなかったことで、最後まで試合の流れを掌握できませんでした。