■2015年カンボジア代表と3つ星ホテルで
最も印象的だった「代表チームとの同宿」は、2015年11月、ワールドカップ予選で行ったカンボジアのプノンペンだ。このときも「スタジアムに歩いていけるホテル」を予約したのだが、ごたごたした町中の質素なホテルにカンボジア代表がはいっていた。カンボジア代表は全員が国内リーグ所属、しかも当時の代表チームは若い選手中心だった。みんな例外なく明るく、たずねてくるファンにも柔和な笑顔で、そして仏教徒らしく礼儀正しく対応していた。
当時の日本代表は、ACミランの本田圭祐、ボルシア・ドルトムントの香川真司、インテル・ミラノの長友佑都、さらにはサウサンプトンの吉田麻也と、攻守両面で欧州のトップリーグで活躍する「スター」がそろっていた。その日本代表の宿泊先は、もちろん5つ星のホテルである。ソフィテル・プノンペンは、メコン川に近い広大な敷地のなかにあった。
だが黒いゴムチップだらけの古い人工芝のピッチも影響したのか、試合は日本代表が意外な苦戦を余儀なくされる。後半、ようやくオウンゴールで先制、最後は交代出場した本田がさすがと思わせるヘディングシュートを決めて2-0で勝った。しかしスタジアムを埋めた約3万人の観衆は、FWクオン・ラホラビーを中心に何回もチャンスをつくったチームに大きな拍手を送った。
何よりも素晴らしかったのは、若いカンボジアの選手たちが日本の「ビッグネーム」にまったく臆することなく、もてる力を発揮し尽くしたことだった。年俸数億円という選手たちをリスペクトしすぎず、恐れずに戦う姿には、すがすがしい思いがした。