■素顔のカンボジア代表選手たち

 しかし最大の驚きは、試合の翌朝だった。早朝、私は朝食を済ませ、宿泊費の支払いのためにフロント前で計算ができるのを待っていた。そこに選手たちが次々に大きなスポーツバッグをかついでエレベーターから降りてきた。市内の選手が多いはずだから前夜解散したのかと思っていたのだが、この朝解散になったらしい。日本なら、Jリーグ各クラブのマネジャーが迎えにきているのだが、カンボジアの選手たちはどう帰るのだろうか――。

 私は、腰が抜けるほど驚いた。彼らは、ホテルの前に停めてあったバイクに次々とまたがったのだ。その何人かは、2人乗り(!)だった。そしてエンジンをかけると、互いに片手を挙げてあいさつをかわし、プノンペンの朝の雑踏へと散っていったのである。

「負けた」と思った。日本選手たちは、5つ星のソフィテルのフワフワとしたベッドで目を覚まし、大きなバンケットルームで自分たちだけの朝食をとり、これから空港まで豪華なバスやリムジンで送られ、ビジネスクラスで足を伸ばして欧州各国や日本へと帰っていくのだろう。その自分たちが「どっこい」の試合をしてしまった相手選手たちが、町中の3つ星ホテルからバイクの2人乗りで帰途についているという事実を知ったら、彼らは恥じ入るだろうかと思ったのだ。
 

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