川崎対福岡「サッカー批評」の醍醐味(3)「心から称賛したい」福岡のプレーの画像
登里享平(川崎フロンターレ) 撮影/中地拓也

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そこには、人に語りたくなるゲームがあった――。結果しか知らない人に、この試合の素晴らしさをどう伝えたらいいだろう。まっさらだったゲームが両チームの間で左右に動き、上下に起伏して、90分+アディショナルタイムの時間が流れると、勝者と敗者に分かれていた。それだけのことだけれど、人に語らずにはいられない内容がぎっしり詰まっていた。4月14日に等々力競技場で行われた試合の「勝負の分かれ目」について考えた。

■95分の山根ゴールで川崎が突き放す

 この時間帯にはいると、川崎はジェジエウ投入の効果がはっきりと見え、相手のロングパスをジェジエウが次々とはね返して守備が安定する。しかし「5分間」と示された後半アディショナルタイムにはいると、さすがの川崎にも「1点差を守って勝ちきろう」という意識が生まれたのか、カウンターもやや消極的になる。後半49分に田中と車屋が連続して左を突破するシーンがあったが、いずれもゴールには向かわず、車屋は明らかに「コーナーでキープ」のプレーを選択した。

 しかしこのまま終わらないのが川崎である。ここで車屋が奪われたボールを川崎MF塚川が回収、素晴らしい運動量で川崎の攻守をつなぎ、攻守に奮闘した福岡のMF前とともにこの試合の「MVP」と呼びたくなるほどだったMF脇坂泰斗が判断よく右後ろのDFジェジエウへつなぐと、ボールはさらに右のDF山根に展開される。そしてここで最後の「川崎らしさ」が発揮されるのだ。

 ゆっくりとボールをもつ山根に、福岡の選手たちが「またキープか」と思った瞬間、山根は突然スピードを上げ、マークしようと追ってきた福岡MF金森健志(ハーフタイムに吉岡から交代)を振り切り、ペナルティーエリアに近づく。そしてエリア内のレアンドロダミアンの足元にパスを送り、そのまま走り込む。レアンドロダミアンはゴールを背にしたまま右足を左足の後ろで振ってリターン。山根は10メートルの距離から左足インサイドでゴール右隅に流し込んだ。

 3-1。しかし福岡の闘志は衰えない。奈良が田中へのパスをインターセプトしてそのまま出ていき、この試合7本目、そして最後のCKを得る。GK杉山も上がって「もう1点」を狙うが、川崎も必死に守り、左にクリア。「後半52分」を迎えようとするとき、家本主審はスローインしようとする福岡DF湯澤を制し、試合終了の笛を吹いた。

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