日本代表と宿縁の赤いゴールネット

 いま一般に販売されているゴールネットの価格を調べてみると、「四角目編み」なら1組3万円から8万円、「亀甲編み」だと5万円から10万円する。ちなみに、販売単位は「2枚1セット」で、片方のネットだけぼろぼろになったといっても、1枚だけ買うのは難しそうだ。

 ジーコが声を大にして白くしたJリーグのスタジアムのゴールネットは、おそらく2002年のワールドカップごろまでは白いままだったが、その後、欧州のクラブにならって、クラブカラーのものが用いられるようになった。「スタジアム基準」にあるように、白以外のものにするときにはJリーグに申請し、承認されなければならない。

「赤いゴールネット」は、日本のサッカーにとって忘れることのできない2つの試合に結びついている。ひとつは1993年秋の「ドーハの悲劇」の舞台、イラク戦が行われたカタールの首都ドーハのアルアハリ・クラブのスタジアムだ。このときのアジア最終予選は、基本的に全試合を「ナショナル・スタジアム」ともいうべきハリーファ国際スタジアムで開催していたが、最終日は3試合を同時刻キックオフにするため、日本対イラクはアルアハリでの開催となった。ハリーファのゴールネットは白だった。しかしアルアハリはなぜか赤だったのだ。ちなみにアルアハリのクラブカラーは緑である。日本代表GK松永成立が守るゴールにボールが吸い込まれ、赤いネットの下部が小さく揺れたシーンは、まだ脳裏に焼きついている。

 そしてもうひとつが、その4年後、ワールドカップの「アジア第3代表」をかけてイランと対戦したジョホールバルのスタジアムだ。前日練習のときにはなぜかゴールネットが張られていなかったのだが、試合当日、キックオフの4時間前にスタジアムに行くと、最初に目についたのが赤いゴールネットだった。だがこのときには、2-2で迎えた延長後半13分、岡野雅行が立ったままでもけることができるボールを大事に大事にスライディングしながらゴールに押し込み、日本を初めてのワールドカップ出場に導いた。

 ルールではなぜか「まま子」扱いされているゴールネット。しかし「義務ではない」のに「絶対になくてはならない」という不思議な存在であり、しかもどこかに穴はないか、ボールが抜けてしまうような部分はないかと、試合前にレフェリーたちが最も入念にチェックするのが、ゴールネットである。そして得点の感動というと、なぜかそのネットにボールが突き刺さり、ネットが大きくふくらんだシーンを思い浮かべるのは、私だけではないだろう。

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