■「四角目編み」から「亀甲編み」に
色とともに大事なのが、ネットの形状である。ネットは糸を編んだものでつくられる。従来、日本のゴールネットはすべて「四角目編み」だった。だが外国のサッカーを見ると、1マスを6角形にした「亀甲編み」が多い。1990年にイタリアで開催されたワールドカップを見てそこに着目したのが福井英輔さんだった。
福井さんは慶応大学と日本サッカーリーグのヤマハ発動機(現在のジュビロ磐田)で、スピードあふれるストライカーとして活躍したサッカーマンだったが、やがて愛知県に戻り、家業を継いだ。そしてイタリア・ワールドカップの試合を見ながら、シュートが決まるとネットが大きくふくらみ、やがてボールがゆっくりと落ちてくるのに目を奪われた。日本で見慣れたゴールシーンとは違う感動が伝わってきた。そしてその違いが「ネットの編み方」にあることに気がついた。福井さんが継いだ家業は漁網の製作である。ワールドカップを見ながらゴールネットに目が行くのは、さすがに「本業」である。
イタリアから帰ると、福井さんはさっそく「亀甲編み」の研究に取りかかった。亀甲編みのネットをつくるには、日本で数台しかない特殊な編み機が必要なのだが、幸い福井さんの会社に1台あった。そして4年の歳月をかけてサッカーに適した亀甲編みのゴールネットの開発にこぎつけた。1995年にジュビロ磐田のスタジアムに取り付けられたものが、日本で最初の亀甲編みのゴールネットだった。その良さが認められ、2002年のワールドカップでは、日本だけでなく韓国を含めた全20スタジアムで採用された。
ゴールネットは消耗品ではない。それこそ、いちど購入すれば何年間でも使うことができる。だから、まったくもうけにはつながらない。現在福井さんが社長を務める「福井ファイバーテックス」という会社で、「サッカー関係事業」の担当者は、福井さんただひとりだという。