フリーランスの旅の作法

 こうした「観光旅行」ができなくても、私は時間が許す限り試合の行われる町の名所は訪れることにしているし、ともかく町を歩き回るのが大好きだ。その国の文化や風習などを知るのはとても楽しいし、いろいろと考える刺激にもなる。だが考えてみると、それも記事を書くときの味付けやバックグラウンドに使うことが多く、「取材」の範疇から出ないものかもしれない。

 日本代表が盛んに国際試合をやるようになった1990年代以降、私の「海外出張」は、ワールドカップなどの大会を除くと、日本代表の遠征を追いかけるという形が圧倒的に多くなった。日本代表は毎年3〜5回は海外遠征をするから、私の海外取材も、その回数プラスアルファということになる。もちろんことしは、AFCのU−23選手権の取材で1月にタイのバンコクに行っただけだが……。

 多くの取材記者は、日本代表と行動をともにする。しかし私は、試合の何日も前から現地に行く余裕(金銭的にも時間的にも)がないので、たいていは試合の前日に到着する予定を組む。その日の昼前ごろまでに現地に到着し、荷物だけをホテルに放り込んで両チームの公式会見に飛んでいくということが多い。会見の場では、ほとんど例外なく、記者仲間から「いつ着いたの?」と聞かれる。「さっき」というのが決まり文句だ。

 いまはなくなったが、かつては、日本サッカー協会の旅行部門を助けている旅行会社が「メディアツアー」なるものを企画し、代表の活動に合わせた旅程を組み、ホテルを手配し、現地ではバスまで仕立てて練習場や試合会場に連れていっていた。当然、こうしたツアーは料金が高い。新聞社や通信社の記者たちには、取材に専念できるので都合が良かっただろうが、自前で費用を捻出しなければならないフリーランスは、そんなものを使っていたら、ただでさえ赤字の海外出張が大赤字となってしまう。当然、飛行機もホテルも現地の移動も、自分で手配することになる。

PHOTO GALLERY 全ての写真を見る
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5