■出張とサッカー旅の大いなる違い
後藤さんは、飛行機もホテルも「究極の格安」を探す名人である。意図的に直行便を使わずに格安の飛行機を乗り継ぎ、途中で観光や試合取材を入れたりして、「旅」をより豊かなものにする。だが「旅人」ならぬ「出張者」の私は、もちろん安いものを探すが、安全性や清潔さ、そして快適さなどと「折り合い」をつける。飛行機はできれば直行便を使い、たいていの場合、私のホテルは後藤さんのホテルより星がひとつ多い。もちろんこれは自慢ではなく、私の「臆病さ」の結果であり、フリーランスとしては誇るべきことではないと思っている。
ここで言う「安全さ」とは、事故の可能性を言っているわけではない。試合の前日に到着するのだから、欠航や大幅な遅れがあったら困る。乗り継ぐにしても、可能であれば、航空会社は変えず、どうしても他社便に乗り換えざるをえないときには、多少高くはなるが(数千円の違い)、主要な航空会社ですべて発券してもらうようにする。こうしておけば、多少遅れても乗り継ぎ便に連絡しておいてもらえるからだ。
ホテルの選択では、スタジアムに近いところを探す。徒歩で行けるのが理想だ。海外のスタジアムでよく困るのが、試合後に公共交通機関がないことだ。歩いていけるところなら、交通渋滞も試合後も気にする必要がない。日本サッカー協会は報道陣に対し「日本代表との同宿は禁止」というルールをつくっているが、日本代表はたいていその町の最高級ホテルに泊まるので、スタジアムの徒歩圏内にあろうと、たとえスタジアム内にあろうと、私の選択肢にははいらない。
こうして、いまでは、日本代表の海外遠征があると、取材陣もさまざまな航空便を利用し、それぞれにホテルをとって泊まるようになった。日本代表が宿泊するホテルには、そこで記者会見がある場合のほかは立ち入ることはできないし、冒頭の15分間しか見せてくれない練習に通い、日によって定められた選手(あらかじめ日本サッカー協会の広報担当がローテーションを決め、毎日数人ずつが対応する)の話を聞き、記事を書かなければならない。話したい選手と話すこともできず、練習といっても、ウオーミングアップのボール回しとランニングぐらいで外に出されてしまうので、毎日の紙面を埋めるのは大変な作業だ。
私がサッカーの取材を始めたころの話をすると、若い記者たちは「信じられない」という顔をする。たしかに、夢のような時代だった。