大住良之の「この世界のコーナーエリアから」 第34回「1枚の写真」(3)「写真は誰のものなのか」の画像
「サッカー史で最も象徴的な写真」(c)Y.Osumi
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世界的に有名なペレとムーアの写真をめぐる、壮大でなんとも不思議な物語だ。大住さんは1970年の秋に新宿紀伊国屋書店で、その写真の掲載された輸入雑誌を手に入れそこねている。最後の一冊をサッカーファンらしき清楚な女性にゆずってしまったのだ。ところが、40年以上が過ぎて、ロンドン・オリンピック取材で入手した念願の写真は……。

■写真の著作権は誰のものか

 同じ日、ピーターはさらに詳細なメールを送ってきた。

「この話は、確かに書く価値がある。この写真については、著作権についての問題もある。彼は『ミラー』の社員ではなく、この写真は彼自身のものだと考えていた。しかし彼も『ミラー』も確定的な著作権を証明することはできなかった。『ミラー』はメキシコまでの航空券を用意し、ホテル代を支払い、『ミラー』の記者としての取材証を取り、彼が撮影したカラーフィルムはロンドンの『ミラー』の現像所で現像された。だから撮影者であるジョンよりも多くの権利をもっていると主張している。この写真がジョンの技術によって撮影されたことは間違いない。しかし君も知るとおり、法律というのは、別な考え方もする。バーリー家と『ミラー』の闘争は何年も続いている」

「ジョンは1966年にもカラー写真でワールドカップの決勝戦を撮影した。そのときは、やはり『ミラー』から入場券をもらっての撮影だった。そして試合終了直前、観客席のフェンスを乗り越えてピッチにはいり、イングランドの選手たちがボビー・ムーアを肩車してファンにカップを掲げる写真を撮った。『ミラー』が入場券を用意しなければ、この写真は生まれなかった。その日、『ミラー』は10枚以上のチケットをカメラマンのために用意したのだが、ジョン以外のカメラマンはモノクロでの撮影だった」

 半月ほどして、ピーターは再び短いメールを送ってきた。

「ひとつアイデアがある。笑わないでくれ。いっしょに本をつくらないか? 2人の老人が40年以上も前のサッカーのロマンスを追跡するという本だ。写真と文章で。サッカーへの愛にあふれたシリアスな君の文書に、僕が写真をつける。サッカーが40年前より良くなっていないのは間違いない。40年前のサッカーは現在のサッカーとは完全に違うものだったし、私たちはそれを見、思い出すだけで、けっしてそのサッカーに再び出合うことはできない。あのサッカーは完全に失われた」

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