■優れた写真家のみが知る瞬間
実は1年前にイングランドはリオデジャネイロでブラジルと対戦し、1-2で敗れていた。そのときにはMFのアラン・マレリーがペレと当たることが多く、試合後、ペレはマレリーをほめてユニホーム交換していた。この試合でも、試合後、マレリーは再びユニホームを交換しようと、ペレのところに寄って行った。しかしペレは試合が終了すると同時に近くにいたブラアイン・ラボーンとハグを交わしし、すぐにムーアの姿を見つけて歩み寄った。
そのときマレリーがペレの右肩に手をかけ握手を求めた。ペレはふり返ってマレリーと握手すると、再びムーアに向き合い、自らユニホームを脱いで交換を求めた。「あの1枚」が生まれたのはこの瞬間だった。「たまたま撮れた」のではない。ジョン・バーリーはペレがムーアとユニホーム交換をするのをあらかじめ知っていたわけではないが、少なくとも感じ取っており、待ち構えて準備し、最高の瞬間を撮ったのだ。それが、ピーターの言う本当に優秀な写真家の「技術」なのだ。
そうして撮影された写真を、裏焼きにするというのは、作品に対する侮辱であると、私は思う。だが、ネットで検索すると、今日でも裏焼きのままの写真が出回っている。これは『ミラー』、あるいは彼らから権利を譲り受けた『シュート』のずさんな管理によるものであることは間違いなく、そのまま流通させてしまっているのは、「サッカーの母国」にとって大きな恥だ。
2010年、英国のスポーツ記者協会はその公式サイトでジョン・バーリーの死を報じた。そこには、タフで頑固そうでそして洞察力にあふれた写真家のスナップショットが掲載されている。しかし彼の代表作として紹介されたペレとムーアの写真は、やはり「裏焼き」だった。
ジョンの長男のアンドリューはジョンの仕事を受け継ぎ、リーズで「バーリー・ピクチャー・エージェンシー」を営む一方、リーズ・ユナイテッドの写真を撮り続けている。次男のデービッドは映像関係に進み映画制作会社を営んでいる。またジョンの孫のジェームズはリーズ・ユナイテッドのスタッフとして働いた後、ワールドカップ・カタール大会の組織委員会で働いている。そしてアンドリューの孫のジャックは、2001年以来、リーズ・ユナイテッドのオフィシャル・カメラマンとして活動している。