■なぜかペレとムーアが逆の位置に
だが、あらためてその写真を見て、私はどこかひっかかるものを感じた。そこでイングランド・サッカー協会（ＦＡ）が２００６年ワールドカップの招致活動をしていたころに世界中に配布したカレンダーを取り出してみた。何ということか、まったく同じ写真であるはずなのに、ペレとムーアの位置が左右入れ替わっているのだ。２枚の写真を詳細に見て、私はＦＡのカレンダーが正しく、ミュージアムで買ったプリントが「裏焼き」であることを確認した。
裏焼きとは、デジタル時代になった現在はほとんど起こらないが、フィルムを原稿にしていた時代にはよく起こったミスだった。フィルムを裏表逆に使ってしまうのだ。文字が映っていれば容易に見分けることができる。しかし胸広告はおろかユニホーム前面の番号もない時代のサッカーでは、ときおり裏焼きのまま印刷され、雑誌が書店に並んでしまうこともあった。写真ページの校正では、文字チェックだけでなく、裏焼きではないかをチェックすることは重要な仕事だった。
幸い、このプリントを制作した会社のＵＲＬが「証明書」の下部に書いてあった。翌日、「Ｉｒｏｎ Ｇｕｔ Ｐｕｂｌｉｓｈｉｎｇ」という会社のセールス部門にメールを送った。
「帰宅してこのプリントが正しくなく印刷されていることを発見し、非常にがっかりした。これはオリジナルのフィルムを裏側から焼いたものである」
返信がきたのはわずか１時間半後だった。
「親愛なるオースミ、Ｅメールありがとうございます。この写真は『シュート』誌からライセンスされたもので、１９７０年に『シュート』誌に初掲載されたときから何の修正も行われていません。１９７０年の初掲載以前に修正が行われた可能性はありますが、４０年も前のことですので、調査しようがありません。このシーンはたくさんのカメラマンによっていろいろな角度から撮影されたはずです。ですから、あなたが過去に見た写真は、他の場所から撮影されたものかもしれません。残念ながら、これ以上のご援助をすることはできません。アンソニー・マークス／アイアンガット出版」
