■不誠実すぎた出版社の対応
「若造が何を言っているか!」
私はけっして若い人びとを見下すような人間ではない。若い同業者もリスペクトしているし、わからないことがあったら素直にたずね、教えを請う。しかしこのとき私の心に渦巻いたのは、「歴史を知らない若造が……」というどす黒い感情だった。即座にメールを書いた。このメールは、ついでに、「オフィシャルショップ」でプリントを販売した「ナショナル・フットボール・ミュージアム」にも同報で送った。
「親愛なるアンソニー、すばやいご返信を感謝します。しかし同時に、あなたの返信には大きく失望しました。添付した2枚の写真を見比べてください。1枚はFAの2006年招致活動で使われたもの、そしてもう1枚はあなたの会社の『シュート』誌の写真です。私の意見では、前者が正しく、後者は間違ってプリントされています。以下にその理由を書きます」
「1 カメラのシャッターボタンは、例外なく左端についており、カメラマンはそれを右手の人さし指で押します。写真に写っている白いTシャツのカメラマンの撮影の仕方を注意深く見てください。どちらの写真が右手で押しているでしょうか。」
「2 そのカメラマンの白いTシャツを見てください。前面にプリントされているのは、この大会『MEXICO 70』の公式マークです。その下部に書かれた最初の文字は『M』であり、最後の文字は『O』です。どちらが正しいでしょうか。」
「あなたの貴重なお時間を取らせていることについてはお詫びします。しかし私はこのメールによって何か見返りを得ようというものではありません。私の考えでは、この写真はサッカーの母国イングランドの『国宝』のようなものであり、写真、写真家、そして偉大なサッカーの伝統へのリスペクトとして、適切に印刷されなければならないものです。これらの2枚の写真を注意深く検討されることをお願いします」
またもや返信はすぐにきた。
「私たちは『シュート』誌からライセンス契約を受けているだけで、1970年に雑誌に掲載されたとおりにプリントしています。私はあなたのコメントを理解しました。しかしながら40年前にこの雑誌にかかわった人びとはすでに他界し、なぜこうなったのか、永遠の謎というしかありません。ただ、私はあなたのメッセージを『シュート』誌に転送し、返答があり次第あなたにお知らせします」
さすがに「アイアン・ガット(鉄の肝)」らしい強情さだ。もちろん、以後、アンソニーからメールが送られてくることはなかった。