■ボールガールからピンナップ・ガールへ

 だが、こうした胸くそが悪くなるようなことばかりではない。その前年、2012年にブラジルで生まれた「ボールガール・アシスト事件」は、なかなか爽やかな話題だった。

「ボールガール」といっても、主役は23歳。フェルナンダ・マイアという小柄な女性だった。ブラジル・リオ・カップの決勝戦、試合会場はリオ五輪の陸上競技場として使われた「ジョアン・アベランジェ・スタジアム」(現在の名称はホームとして使うボタフォーゴのレジェンドの名から「ニウトン・サントス・スタジアム」)。陸上競技のトラックがついているから、「ボールボーイ」の動きが重要になる。

 ボタフォーゴがライバルのバスコダガマを2-0とリードして迎えた後半、ボタフォーゴが左から突破しようとしたのをバスコのDFがかろうじてクリアした。チャンスは消えたと思った瞬間、観客は信じ難いものを見た。プレーの動きとともにピッチに近づいて走ってきたひとりのボールボーイ、いや、長い髪をポニーテールにまとめたボールガールが、ボールを失ったばかりのボタフォーゴMFアンドレジーニョに向かって、手にしたボールを、まるでバスケットボールのように投げたのだ。

 ボールを受け取ったアンドレジーニョがタッチライン沿いに投げると、判断よくアンドレジーニョを内側から抜くように追い越したFWアブレウが突破、ゴール正面に送ったボールをMFマイコスエルが決め、勝利を決定的にしてしまったのだ。ボールがタッチラインを割ってからスローインまでわずか1秒、インプレーになってから得点まで6秒という、まさに電光石火の得点だった。試合はボタフォーゴが3-1で勝った。

「ボタフォーゴに勝利を与えたボールガール」として、一夜で超有名人になったフェルナンダ。だがそのコメントも爽やかだった。

「どのクラブのファンかって? それはヒ・ミ・ツ! 私は自分の仕事をいつもどおりしただけよ。夢は、再来年(2014年)のワールドカップで『ボールボーイ』になることね」

 彼女はプレーが自分の方向に近づいてくると持ち場を離れてプレーに近寄り、手にしたボールをアンドレジーニョに投げると、すぐに振り向いて、外に出たボールを拾いに走っていた。直後のボタフォーゴのプレーを見ていたわけではなく、得点も見ていなかった。「ワールドカップでボールボーイになる」という夢はかなわなかったが、後に『プレイボーイ・ブラジル』のピンナップガールになり、現在はテレビのスポーツ番組で活躍している。

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