■ボールパーソンの怪しい事件簿
かつては、「ボールボーイ」と言った。女の子の場合、「ボールガール」と呼ばれることもあったが、「ボールパーソン」という中性的な呼称は、21世紀ならではのものと言える。
現在のような「マルチボール・システム」ではなく、原則として1個のボールでプレーしていた時代には、彼らは外に出たボールをすばやく拾い、ピッチに戻すという役割を負っていた。現在は、交換用のボールをもつ役割ととともに、出たボールを拾って、交換用のボールを出した「ボールパーソン」の元に戻すという役割をもった2種類の「ボールパーソン」がいる。
通常は10代の若者である。Jリーグの試合を見ていると、クラブのアカデミー(ユース、ジュニアユース)の選手だったり、ホームタウンの高校や大学のサッカー部員だったりすることが多い。イングランドのマンチェスター・シティでは、シーズン前に公式サイトで募集し、「セレクション」を経て選んでいるという。
Jリーグの「試合実施要項」に、第36条「係員」として、場内の警備・案内要員、場内放送要員、担架要員、記録員と並んで「補助係員」のひとつとして「ボールパーソン」が挙げられている。ホームクラブが配置しなければならないというだけで、人数や役割などは、何も規定されていない。それぞれの試合でホームクラブが「ボールパーソン」を選び、指導して試合に送り出す。
古くは、アルゼンチン代表のキャプテンだったダニエル・パサレラがイタリアのインテル・ミラノでプレーしていた時代に「ボールボーイをける」という蛮行を行った。サンプドリア戦でのことだったが、彼はそのボールボーイと父親に謝罪したものの、この行為で6週間もの出場停止処分だけでなく70万円もの罰金を支払わされた。
南米ではボールボーイがホームクラブの有利になるように動くというのは半ば常識なようで、ボールボーイをめぐるトラブルも少なくない。GKまで出てCKから得点を狙ったホームチームがそれに失敗してカウンターを受けたところ、無人のゴール前に飛び出してシュートをクリアしてしまったボールボーイもいたし、アウェーチームのゴールキックになったときにボールをGKに渡さず、自らピッチ内にドリブルしてゴールにけり込んでしまったボールボーイもいた。
「マルチボール・システム」の時代になってからは、アウェーチームのゴールキックをさせまいと、すでにボールはセットされているのに手にしていたボールをGKに向かって投げ(ピッチ内にボールが2個あるとプレーを始められない)、怒ったGKがそのボールを強くけり返してボールボーイの顔面を直撃するという事件もあった。