「譲瑠」と書いて、“ジョエル”と読む。18歳にして、東京ヴェルディでトップ昇格を果たし、アンカーに抜擢されるや、定位置をつかんでみせた。すなわち、大器である。めざましい成長を続ける、そのプレーぶりをぜひ知っていただきたく、ここにご紹介させていただく――。
■急激に成長しつつある高い攻撃能力
藤田は、ボールを奪った後の処理も非常にうまい。
今シーズン、僕が初めて藤田のプレーを見たのは、J2リーグが再開されて3試合目。第4節の大宮アルディージャ戦だった。ベンチスタートだった藤田は、後半開始からアンカー・ポジションに入ったのだが、僕は後半開始すぐの時点で観戦ノートに「36、広い展開力」とメモをしている。「36」はもちろん藤田の番号だ。
そして、J2リーグでのプレーを重ねていくうちに、藤田のプレーはどんどん幅が広がっていった。奪った後のボールの処理の引き出しが増えていった。
ボールを奪った後、自身のドリブルで持ち上がる。あるいは、前線の選手にパスを付ける。そして、短いパスを交換させて中盤でボールを落ち着かせる……。そうした選択肢が増えていったのだ。
もちろん、まだ18歳でトップチームに昇格したばかりの選手なだけに、判断ミスもある。無理に前線にパスを付けようとしてカットされてピンチを招くこともあるし、逆に憶病な選択をしてしまうこともある。だが、きちんと自分で状況を判断して、「次にどうするべきなのか」ということを明確に意識化して次のプレーを選択できる。その選択が間違っていることはあったとしても、曖昧な、中途半端な、意図の感じられないプレーはしない。そのあたりに“パーソナリティー”の強さを感じるのだ。
奪ったボールをドリブルで相手陣内深くまで持ち上がったり、前線にくさびのパスを入れたりする姿を見ていると、次第に彼が攻撃的なセンスの持ち主であることも分かってきた。
話を金沢との試合に戻すと、この試合でも前半から藤田のパスを起点にチャンスが生まれていた。30分にはハーフライン付近から左サイドの山下諒也へのパスが通り、山下がペナルティーライン付近からシュートを放った場面があった(シュートはクロスバーを越した)。
そして、チームの2点目、一時的に東京Vが逆転に成功した佐藤のゴールを生み出したのも藤田の的確なパスだった。
中盤で、味方が奪ったボールがこぼれ球のように藤田のところに回ってきたその瞬間。藤田はすぐに状況判断をして、ワンタッチで強めのパスを佐藤の足元に入れたのだ。従って、この場合は“強いパス”という選択が正解だった。そして、正確に足元に入ったパスを佐藤はワンタッチでコントロールして、そのままシュートを決めた。
この後、金沢が再び同点に追いついたのだが、藤田は終盤まで深さのあるパスで相手守備陣をえぐったり、自らのドリブルで守備陣を切り裂いたりと、ゲームの終盤では大げさに言えば「やりたい放題」のプレーを見せた。