■空港カウンターのフランス美女
2006年ワールドカップ・ドイツ大会では、ADカードを示すだけで、ドイツ鉄道の特急列車に乗ることができた。しかも1等である。これはうれしかった。だが、通常は、ADカードには何の特典もついていない。ただ、私の経験のなかで、ADカードがまるで「黄門様の印籠」のような役割を果たしたことが2回だけある。
最初は「プロ根性カメラマン」氏が災難に遭った1998年ワールドカップ。決勝戦の翌々日、帰国しようとシャルルドゴール空港に行ったときだ。チェックインカウンターには、とびきりの美人がいたのだが、「重すぎるから超過料金が必要です」。私はあわてず、手にしたバッグから大会のADカードを取り出し、彼女に示しながらこう言った。
「これを見てくれ。僕はジャーナリストで、1カ月以上もフランスでワールドカップを取材してきたんだ。重要な資料がたくさんある。そして、フランスの美しい思い出もいっぱい詰まっている。わかるだろう?」
彼女の声は裏返った。
「あら! それではあなたは、おとといもスタジアムにいたの?」
「もちろん」
「あなたは幸運な人ね!」
そう言って、彼女は追加料金を徴収することなく、私のスーツケースにタグをつけてくれたのである。スーツケースは38キロもあった。