■正しいカードとの付き合い方

 ワールドカップなど大会の取材に行くと、現地に到着した日に「何はともあれアクレディテーション」と、ADカードの受け取りに行く。まあ、仕事熱心なわけである。スタジアムに隣接する「アクレディテーションセンター」に行くと、受け付けの後、デスクの前に座らされて小さなWEBカメラで写真を撮られる。それがコンピュータに取り込まれ、名前などとともにプリントアウトされる。係員はミシン目のついた紙の不要部分を破り捨て、2つ折りにしてパウチし、首からぶら下げるひものついた透明なビニールケースに入れて「一丁上がり」といった流れである。

 だが十数時間の長旅の後にシャワーも浴びず、着替えもせずにホテルに荷物を放り込んで出てきた身。無精ひげが伸び、服もよれよれ、頭は飛行中の「寝ぐせ」がついたままだ。出来上がってきたADカードの写真を見て、これから1カ月、このひどい顔をした自分の顔が首からぶら下がっているかと思うと、ひどく気が滅入る。

 大事なものだから、多くの人がスタジアムを離れてもADカードを首からぶら下げている。バッグに入れてどこかに置き忘れたら、あるいは「置き引き」(ブラジルではその被害が非常に多かった)にでもあったらお手上げだ。だがADカードをぶら下げたまま町を歩いたり電車に乗ると、人びとが好奇心に満ちた目で見る。それがどうしてもいやだった。

 ロシアの「ファンID」は、世界中からきたサッカーファンを仲間意識で結びつけただけでなく、私のそんな小さな悩みまで一瞬で吹き飛ばしてしまった。ワールドカップでは、2022年カタール大会でも「ファンID」を使用するという。Jリーグや日本代表の試合などでは、いまでも取材者や大会関係者だけがADカードをぶら下げ、ハーフタイムにトイレに行くときには少し気になるが、ワールドカップでは、そうした時代は終わろうとしているのかもしれない。

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