■特殊だった日本サッカーの場合
そのころ、「極東」の日本では興味深い状況にあった。アマチュアの日本サッカーリーグ(JSL)時代から、チームが堂々と胸に企業広告をつけてプレーしていたのだ。それはもちろん、実質的には広告だったが、日本サッカー協会の見解はそうでうはなかった。「チーム名」だったのだ。JSLの大半は企業チームであり、読売サッカークラブら少数のクラブチームも、多くがチーム名に企業名を入れていた。
Jリーグ時代になって初めて純粋な「ユニホーム広告」が認められ、「制度」が「実際」に即するようになる。このあたり、なにより「たてまえ」が重要だった江戸時代からの日本社会の文化を引き継いでいるようで、非常に興味深い。
Jリーグでは、最初は胸とそでの広告だけだったが、次第に広げられ、現在はユニホームのシャツ部分に最多で6カ所、パンツにも1カ所に広告掲出が認められている。最も最近の追加は2018年の「鎖骨広告」(2カ所)だ。まあ、このあたりが限界だろう。ブラジルでは、かつてのフランスのように際限なく広告がつけられた結果、オリジナルのユニホームカラーが目立たなくなってしまったという笑えない話がある。
■楽天とともに世界のトップへ
2006年、ひとつのニュースが世界を驚かせた。スペインの名門FCバルセロナが、長年の「禁」を破ってついにユニホーム広告をつけるというのだ。だがバルセロナがクラブエンブレムとともに胸につけることにしたのは「UNICEF」。日本語にすると、「国際連合児童基金」。世界中の子どもを援助している国連の機関だ。
バルセロナは「クラブ以上の存在」を理念としてうたっており、さまざまな社会活動を展開して、ユニセフへの募金も継続的に行ってきた。胸にユニセフのロゴを入れることで収入を得るのではなく、逆にユニセフの活動を助けようという崇高なアイデアに、世界が驚愕し、そしてその態度を讃えた。バルセロナがユニセフのために集めた基金は20億円を超し、アフリカを中心とした150万以上の子どもたちに予防接種を施したり、教育やスポーツプログラムに参加する機会を与えた。
だがそのバルセロナも間もなく方針を転換する。2010年、ユニセフから非営利のカタール財団の名をユニホームにつけるようになり、2013年にはその契約をカタール航空の広告とするものに変えて年間40億円と言われる収入を手にするようになる。さらには「ユニホーム裏」にまでスポンサーをつける。コンピュータ・プロセッサの「インテル」である。文字どおり「インテルはいってる」の広告契約は、5年間で24億と伝えられた。そして2016年には、日本の楽天と年間80億円というユニホーム広告の契約を結び、もちろんユニセフへの支援は継続しているものの、バルセロナは、いまやユニホーム広告でも世界のトップを驀進するまでになった。