■J1王者のタイトル奪回への視界良好
さて、クラブのバンディエラ中村憲剛の復活はフロンターレ・サポーターにとっては何よりの朗報だったことだろう。いや、中村本人にとっての最高の喜びだったはずだ。
だが、同時にJ1のタイトル奪還を目指す川崎フロンターレにとっても、復帰した中村憲剛は大きな戦力となっていくはずだ。
今シーズンの川崎は、7月のJ1リーグ再開から破竹の10連勝。8月下旬にちょっとした足踏みはあったものの、その直後の第13節の清水戦では33本のシュートを撃ち、5ゴールを叩き込む圧勝劇を演じて見せた。14試合を終了して(第24節振り替えを含む)獲得した勝点が35。得点が41で失点が12。つまり、1試合平均のゴールがほぼ3点というのだ。
2位のセレッソ大阪とは勝点差が8。しかも、そのC大阪との試合でも5対2と大勝しているのだ。盤石の態勢の川崎フロンターレ。選挙速報風に言えば、もう「当選確実」を付けても良いような状況だ。
だが、これは数十万人が投票する(だから、統計学的に結果を予測できる)選挙でもなければ、ほぼ確実に強いチームが勝つように出来ているラグビーでもないのだ。サッカーというのは何が起こるか分からない不確実性に支配されるゲームである。
実際、たとえば90分間にわたって相手陣内でプレッシャーをかけ続け、相手のシュートを1本だけに抑えた完璧な内容の大分トリニータ戦(8月8日、第9節)では前半24分までに2点を奪ったものの、その後チャンスの山は築いたものの追加点を奪うことができなかった。
第13節の清水戦にしても、16本のシュート数を記録した前半は旗手の1ゴールのみに終わっている。
サッカーというのはこんなものだ。完璧な試合運びでチャンスを量産することはできる。ここまでは、ロジカルな世界だ。だが、それでも相手のGKが好セーブを連発したり、ちょっとした不運が積み重なったりすれば点が取れない試合というのもある。得点が入るか否か……。そこは、もはや「神の領域」だ。
もちろん、今の川崎にはそんな時のための勝ちパターンも確立されている。前半から速いパスを回し、相手陣内から激しいプレッシャーをかけて追い回す。そして、後半になって相手の足が止まりかけたら、豊富な選手層にものを言わせて日本代表クラスのフレッシュな選手を次々と投入してトドメを刺す……。
そういう意味でも、中村憲剛の復帰は川崎にとって大きな意味を持つ。
長期のブランクの後である。しかも、中村憲剛ももうすぐ40歳。過密日程による連戦の中でけっして無理させるべきではないだろう。だが、憲剛がベンチに座っていて、最後の大事な時間帯にピッチ上に投入することができれば、「リズムを変える」ためにこれ以上うってつけの手駒はない。