■まさに「玄人好み」のプレーヤーだった
数少ない記者席には、私のための席はなく、「ここで見てくれ」と連れていかれたのは、VIPボックスのようないくつもの小部屋のひとつだった。現在のスタジアムの「ビジネススイート」のような部屋を想像してもらえればいいだろう。狭く、暗い部屋だったが、前面にガラスがあるわけではなく、ピッチはよく見えた。隣は、黒いロングドレスに身を包み、頭にも黒いレースをかけた上品な老婦人だった。
中盤で相手パスをカットしたマランゴニが、すばらしいステップでチャレンジにくる相手を2人かわし、ボールを持ち出して前線のリカルド・ボチーニに見事なパスを通す。ボチーニはこのクラブのファンの誰もが認めるスーパースターである。その才能は、当時すでに欧州で活躍していたマラドーナにも劣らないと言われていた。だが老女の口からもれたのは、ボチーニへの期待ではなかった。
「マランガ…」
彼女は、うめき声のような低い声でこうつぶやいたのだ。マランゴニの才能と機知に富んだプレーへの感嘆のように、私には聞こえた。そして呪術性さえ感じさせるその響きに、老若男女を問わず、この国の人がいかにサッカーを愛し、そして何よりもサッカーという競技を熟知しているか、一瞬にして理解できる思いがした。
マランゴニは、まさに玄人好みのプレーヤーだった。









