
サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は、「東欧が生んだ智将」。
■魅了された「東欧の指揮官」
ジャーナリストにもいろいろなタイプがいるが、私は選手や監督などとあまり個人的なつきあいはしない。取材しなければならないときには正規のルートを通すし、何度も話して互いのことがわかり合えていると感じる人とは、時に取材を離れた話もするが、だからといって携帯電話番号を聞いたり、メールで連絡を取り合うなどということもしない。あくまで「ジャーナリスト」と「取材対象」の立場を守りたいと思っている。
しかし、そうした記者生活のなかで、唯一「もっと親身になっておけばよかった」と残念に思っている人がいる。1933年6月30日、ユーゴスラビアのスプリト(現在はクロアチア)生まれの監督、トミスラフ・イビッチ(故人)である。
彼とは、1987年のトヨタカップに出場したFCポルト(ポルトガル)の取材で出会い、人当たりの柔らかさ、穏やかな人柄とともに、監督としての姿勢や能力、そして柔軟でいて一本筋の通った哲学に魅了された。
彼もとても楽しみにしていたペニャロール(ウルグアイ)とのトヨタカップは、大雪に見舞われて最悪のコンディションとなってしまった。彼が日本のファンに見せようとしていた当時の最先端のサッカーを披露することはできなかったが、ともかく勝利をつかみ、「世界チャンピオン」の称号を手にした。