■大きな権力を持つ「大型バス運転手」

 1979年9月というと、中華人民共和国建国の父、毛沢東主席が亡くなってから、まだ3年しかたっていませんでした。1960年代後半は、実権を失っていた毛沢東主席が権力を取り戻すために文化大革命を発動しました。文化大革命の間には数千万人が死亡し、共産党や政府の指導者の多くが虐殺されたり、追放されたりしました。毛主席が亡くなってから毛沢東派は駆逐され、1979年になると、ようやく混乱が収まった頃だったのです。

 文化大革命の間は経済も大混乱に陥り、中国はとても貧しい時代でした。人民は皆、自転車に乗っており、自動車は超貴重品。国家の財産である大型バスの運転を任されている運転手は、大きな権力を持っているらしく、国営旅行社のガイドの言うことも聞きません。

 外国人旅行者などほとんどおらず、日本人も物珍しい時代でした。

 そんな中国で、団体から離れて、単独で現地のバスに乗って盧溝橋まで行くというのは、かなりの冒険でした。「せっかく海外に行ったのだから、そういう冒険をしたい」と思ったのは、やはり「放浪家」として血が騒いだからでしょう。

(2)へ続く
  1. 1
  2. 2
  3. 3