■メインスタンドの「記者席」に…

 強烈な思い出がある。1990年にイタリアで開催されたワールドカップでの話である。北イタリアのトリノで試合があったとき、私は前日取材をしたボローニャから鉄道で取材に向かった。ところが、その列車が大幅に遅れ、トリノ駅に着いたのがキックオフの15分ほど前(列車は2時間近く遅れたのだ)。あわてて駅前からタクシーに飛び乗り、真新しい「デッレアルピ・スタジアム」に向かった。

 だが、スタジアムに到着したときには、キックオフ時間を数分過ぎていた。そして、あろうことか、タクシーの運転手が私を下ろしたのは、記者席(そして記者のための入口)があるメインスタンド側ではなく、真反対のバックスタンド側だったのである。「交通が規制されていて、あちら側には行けない」と、運転手は大げさに肩をすくめながら言った。

 だが、私の胸には大会の記者証(ADカード)がぶら下がり、その試合の記者席を保証した1枚のチケットもある。通常の記者入口ではないが、私はバックスタンド側の観客入場口から強引に入り、何はともあれ、ゲートをくぐって観客席の通路まで走った。試合は前半10分近くだっただろうか。

 しかし、私に大きな衝撃を与えたのは、試合がすでに始まっていたことではなかった。メインスタンドの中央に、巨大な部分を占めて記者席が広がっていたことだった。しかも、バックスタンドも両ゴール裏のスタンドもびっしりとファンで埋まっている中、メインスタンド2階の広大な記者席には、まばらな記者しかいないのである。

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