羽田空港にあるANAのラウンジで、筆者の隣に座るサラリーマンと思しきスーツ姿の男性2人組は、偶然にも上海出張について声を弾ませていた。
「シンガポールみたいにおいしい店がいっぱいあるんだよ」と、先輩が後輩に話す。
「1回だけ旅行で行ったことがあるんですけど、楽しみです」と、後輩は先輩に返す。
中国屈指の大都市は、2人の気持ちを高揚させていた。仕事以外の時間はわずかかもしれないが、その心を躍らせるものがこの街にはあった。
一方で、時を同じく上海に駆け付ける川崎フロンターレのサポーターはどうだろうか。ACLE第3戦の、上海申花との一戦。勝ちたいという気持ちと、勝たせたいという気持ちがいつも以上に大きいのではないか。今回駆け付けるとされるサポーターは170人。その気持ちはそれぞれ違うだろうが、いつもと違った感情がその素地にあるはずだ。
では、選手はどんな気持ちなのか。前日会見での小林悠は、「鬼さんの退任が決まったから頑張るというのは選手としては違う」とまずは言いきる。小林は入団以来、鬼木監督とずっとこのチームで時間を過ごしてきた関係だ。ガンバ大阪戦のあとには、涙をぬぐうような姿も見せている。
だからこそ、「今まで通り全力を尽くすことが、自分のやれることだと思う。ただ、やれる試合が少なくなることをかみしめながら、自分の中でベストを尽くす」と、自身を振るい立たせるように言葉をつないだ。