■交代の「本来の意味」と「最古の記録」

 しかし、交代が戦術的な目的で行われるという現象は、サッカーが誕生した頃からあったものではない。それどころか、サッカーという競技では、どんなことがあっても交代は認められていなかったのである。

「交代substitution」という言葉は、サッカーが始まった頃からあった。しかし、それは試合中の選手交代ではなく、予定していた選手が試合会場にこなかったときに代わりとするプレーヤーを意味していたのである。

 今日的な意味での「交代」の最古の記録は、1875年、スコットランドで行われた「ランスロット」と「クロスヒル」というクラブ同士の親善試合である。ランスロットの選手がケガで動けなくなると、クロスヒルが新しい選手を入れてプレーすることを「許可した」というのである。公式戦においては、1885年11月7日、イングランドのFAカップ第1ラウンドの再試合において、ロックウッド・ブラザーズの選手が足を骨折し、交代選手を出したという記録がある。相手はノッツ・レンジャーズ。試合はレンジャーズが4-0で勝った。

「国際試合」では、1889年4月ウェールズのレックスハムで行われたウェールズ×スコットランドの前半20分、ウェールズのGKがアルフ・ピューからサミュエル・ギラムに代わるという交代があった。ウェールズの本来のGKはジム・トレイナーという選手だったが、試合会場に現れず、ウェールズ・チームは急きょギラムを呼んだのだが、彼が到着するまで地元のアマチュア選手であるピューがプレーしたのだ。

 この試合は英国4協会の公式選手権の最終戦。スコットランドはゴールを破ることができず、0-0で引き分けたが、その前の2勝が生きて見事、優勝を飾った。

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