■悲惨な「物不足」の状況に舌を巻いた
そんなブカレストに、私と「相棒」のカイ・サワベ・カメラマンはやってきた。秋の気配は濃厚だったが、まだ日中は暖かく、街路樹が美しい季節だった。私は成田から「西ドイツ」のフランクフルトに飛び、そこからオーストリアのウィーン経由でブカレストに入った。デュッセルドルフに住んでいたサワベ・カメラマンとは、ウィーンの空港で落ち合った。
私たちの滞在先は、クラブから指定された「ホテル・ブクレスティ」だった。都心に位置し、歴史ある重厚な建物で、東京で言えば「帝国ホテル」に当たるらしい。荷物を部屋に放り込むと、さっそく私たちは町の散歩に出かけた。そして伝え聞いた以上に悲惨な「物不足」の状況に舌を巻いた。
そろそろホテルに戻ろうと歩いていたとき、目の前に1台の車が停まって、中から東洋人らしき人が降りてきた。きちんとネクタイを締めた姿は、日本人のビジネスマンそのものだった。声をかけると、やはり商社マンで、目の前のビルの2階にオフィスがあるから寄りませんかと誘われ、喜んで従った。
そこでルーマニアという国が置かれた状況、ブカレストという町など、貴重な話をたくさん聞くことができた。