■西ドイツでの逆洗脳
僕が初めて一人旅でヨーロッパを訪れたのは今から半世紀前、1974年のワールドカップ西ドイツ大会の時でした。その後、1980年にはヨーロッパ選手権(現在のEURO)観戦のために、イタリアに行きました。
当時は、ヨーロッパでは寿司も刺身もまったくポピュラーではありませんでしたが、「日本人は生魚を食べるらしい」という知識は広まっていたようで、あちこちで「お前ら、本当に魚を生で食べるのか?」と訊かれました。
で、刺身とか寿司というのがどういう料理で、どうやって食べるのかを英語で説明しなければなりませんでした。そして、一生懸命説明していると、自分自身で「生魚を食べること」が気持ち悪いような気持ちになってきたのです。
英語で「生魚」は「Raw Fish」ですが、「Raw Fishを食べる」というと、まったく内臓もそのままで、鱗も処理していない本当の生のままの魚に丸ごと噛り付くようなイメージになってしまうのです。いかにも、生臭そうです。
もちろん、実際の寿司や刺身はそうではありませんよね。火は通していないものの、きちんと下処理をした魚肉を、細胞を壊さないような見事な包丁さばきで切り分けたものです。