■新時代の象徴「7万人超え」
シドニーの「スタジアム・オーストラリア」を埋めた観衆は7万5784人。最後の最後まで息詰まる展開は観客を興奮させ続けた。ともに技術の確かさ、パスの正確さ、そして戦術的規律の高さなど、第一級のサッカーの試合と言えた。女子サッカーが安くない入場料を払っても見る価値のあるものであることを、世界に向けて証明した試合でもあった。
また、決勝戦がスペイン対イングランドであったことも、新しい時代の女子サッカーを象徴していた。現在の女子サッカーをリードするのは、欧州、なかでもスペインとイングランドの「ビッグクラブ」であるからだ。決勝戦のピッチに立ったのは、スペインがFCバルセロナを主体にレアル・マドリードの選手を加えたチーム。一方のイングランドは、マンチェスター・シティ、マンチェスター・ユナイテッド、チェルシー、アーセナルといった男子プレミアリーグでおなじみのビッグクラブの選手たちを集めたチームだった。
1991年に女子ワールドカップが始まってから「女王」の名をほしいままにしてきたのはアメリカだった。そこに2000年代の最初の10年間でドイツが台頭した。2003年、2007年とドイツが連覇、アメリカは2011年大会の決勝戦で日本にPK戦で敗れた後、2015年、2019年と連覇、再び世界に君臨していた。
アメリカの強さの根源は圧倒的な競技人口の多さだった。そして他の欧州の国々に先駆けてドイツがアメリカに対抗する力をつけたのは、ドイツのブンデスリーガのクラブが株式会社制のイングランドなどと異なり、半ば公共的な組織となっているためだ。ブンデスリーガのクラブだけでなく、小さなクラブにも当然のように女子チームがあり、女性選手たちの要求に対し、責任感をもち、まじめに応じてきた結果だった。