■Jリーグでの犠牲者
今季序盤のJリーグで大きな話題となったのが、第2節、横浜F・マリノス対サンフレッチェ広島の横浜FM永戸勝也の退場だった。広島GK大迫敬介が大きくけったボールは右タッチラインの中野就斗のところに飛んだが、永戸が勢いよく走ってきてジャンプ、競り勝ってそこから横浜FMの攻撃が始まった。中村太主審は反則があったとは判断せず、そのままプレーを続行させていた。しかしVARからの注意喚起を受けて横浜FMの攻撃を中断するように笛を吹き、プレーを止めた。そして「オンフィールドレビュー」を行った結果、永戸にレッドカードを出したのだ。
VARは、たとえて言えば「ジダンの頭突き」のような重大な反則を主審が見逃したと判断して介入している。中野は首筋を押さえて「ヒジ打ち」があったことを訴えていた。リプレーを見ると、たしかに永戸の腕は中野の頭部に巻き付くように当たっていたものの、そう悪質なファウルがあったようには、私には見えなかった。しかしVARの山本雄大審判員は「レッドカード」と見た。だからこそ主審にチェックを奨めたのである。
この試合では何回も同じようなシーンがあり、このプレーの10分ほど前には、同じようにGK大迫のロングキックを競り合った広島のナッシム・ベンカリファの広げた腕が横浜FMの畠中槙之輔の顔を直撃、ベンカリファにはイエローカードが出されていた。このときにはVARの介入はなかった(プレーを確認した結果、主審の判断は明白な間違いではないことを確認したと推測される)。
そこまではいい。中村主審は出来事を見逃していたわけではなく、重大な反則という判断をしなかっただけだ。一方VARはまったく違う判断をした。だからこそ介入した。ところが何回も繰り返しスロー映像を見れば、どんどん反則に見えてくるというのが不思議なところだ。これはハンドの反則でも同じことで、現場では自然な体の動きで手があるところにボールがきたと感じた事象でも、スローで何回も見るとどんどん反則に見えてくる。