■甲府が仕掛けた「ミラーゲーム」
スキッベ監督の下でチーム力を上げてきた広島は、8月から9月にかけてはまさに「破竹の勢い」だった。厳しい暑さの中の連戦をものともせず、広島はリーグ戦だけで5連勝。カップ戦も含めれば公式戦8連勝を記録した。当時は、リーグ戦で川崎フロンターレがなかなか勝点を伸ばせない状況だったこともあり、2位以上を窺えそうにも思えたほどだ。
ところが、広島の勢いは秋口に入ると翳りが見え始めた。
9月には川崎、10月にはヴィッセル神戸にそれぞれ0対4の大敗を喫したし、ルヴァンカップの準決勝ではアビスパ福岡と1勝1分の大接戦。そして、天皇杯準決勝でも京都サンガF.C.相手に勝利したが、延長戦にもつれ込んでの激戦だった。
そして、天皇杯決勝ではJ2リーグ18位と低迷するヴァンフォーレ甲府の堅陣をこじ開けることができず、PK戦で敗れてしまったのだ。
ルヴァンカップ決勝と同様に、甲府が「広島対策」を徹底。広島の攻撃が機能しない時間が続いた。
天皇杯決勝で対戦した甲府は3-4-3システムだった。広島と同じシステム。つまり、いわゆる「ミラーゲーム」となった。ミハイロヴィッチ監督以来スリーバックで戦ってきた広島を相手にする時、ミラーゲームを仕掛けてくるチームは多い。同じシステムにすることによって選手の立ち位置が分かりやすく、相手を捕まえやすくなるからだ。
天皇杯決勝で、甲府の両ウィングバック(左が荒木翔、右が関口正大)は広島のウィングバック(天皇杯では右の茶島雄介、左の柏好文が先発)との1対1の勝負で一歩も引かない頑張りを見せた。いや、ウィングバックだけではない。甲府の選手はすべてのポジションでJ1の強豪である広島の選手とのデュエルでけっして怯むことなく戦った。その中でも、勝負という意味で特に重要だったのがウィングバック同士の攻防だったのだ。
1対1の戦いも重要だが、甲府はサイドでうまく数的優位も作った。たとえば、左サイドではウィングバックの荒木と、左のシャドーストライカーの鳥海芳樹の関係がうまく連携していた。荒木からのボールで鳥海が仕掛けることはもちろん、鳥海がボールをキープして時間を作る間に荒木が鳥海を追い越して相手陣の深いところに進入する場面もあった。
つまり、広島の右のウィングバック茶島が荒木または鳥海のマークに寄って来たところで、その裏のスペースつまり広島のスリーバックの横のスペースを利用したのである。