■すり合わせられなかった価値観
一方で、齟齬が起きたのは「価値観」の問題だ。クラブは出場停止に加え、期間を定めつつチーム練習への参加を禁じた。その禁止時期が終了しても、乾はチームに合流しなかった。
乾は退団発表当日のＳＮＳで「なかなか練習に復帰できる状況が整わない日々が続いてしまいました」とつづっている。これまで体験したことがない扱いに、どう対処していいか決断できなかったことがうかがえる。クラブも説得を続けたというが、引き際ならぬ、チームメイトの前に出るタイミングを逸し続け、最悪の結果につながってしまった。
乾も謝罪していることから、自身の行動が「間違い」であったと認めていることは確かだ。ただし、自身が犯した罪の軽重の認識に、クラブのそれとは大きな差異があったのだろう。また、日本人にとって鬼門だったスペインでも活躍し、クラブに請われて１０年ぶりに戻ってきた選手の重みにも、乾とクラブの間ではズレがあったのかもしれない。価値観の違いをすり合わせることはできなかった、ということなのだろう。
