本来であれば全国民に共有されるべき富を独占することによって、日本円に換算して「兆」の単位となる巨額な資産を形成したこと自体、すでに「犯罪」と言っていい。
しかし、1990年代のロシア経済は大混乱に陥っており、政治的にも不安定化していた(それを安定化させたのがプーチンだった)。そこで、新興財閥は彼らが手にした「富」を保全するために、資産をロシア国外に移動させておく必要があった。アブラモビッチにとって、その投資先のひとつがフットボール・クラブだったわけだ。
■アブラモビッチが狙った資金洗浄
「投資」というのは、本来的には自分の資産を投じて利益を生むのが目的なのだが、アブラモビッチがチェルシーに投資したのは、そこから利益を産むためではなく、資産を安全な英国に移し、また“汚い”資金をフットボール・クラブに投資することによって“洗浄”するのが目的だったのだから、それを「投資」と呼んでいいかもわからない。
名門クラブのオーナーになることによって社会的認知を受けることもできるし、名誉欲を満たすこともできる(アブラモビッチがサッカー好きだったことは間違いない。これほど足繁くスタジアムに足を運ぶオーナーは珍しいし、スタンドでチェルシーの試合を観戦するアブラモビッチはいつも楽しそうな表情だった)。