![大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第81回「受け継がれるスポーツカメラマンの魂」(3)「真っ白なスカーフを巻き、骨とう品のようなカメラを携えた伝説的写真家『ドン・リカルド』」の画像](https://soccerhihyo.ismcdn.jp/mwimgs/8/0/660w/img_806ba8f72924e22fc8c1c4fac00748a3167488.jpg)
サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、ゴール裏で座っている人たちの話。彼らが切り取る「芸術品」は、国境も時代をも超えていく。
■ある写真家を世に出した1枚
リカルドの父、「ドン・リカルド」は1912年にブエノスアイレスの南、「バラッカ」と呼ばれる地区に生まれた。「ボカ」地区の西に隣接する「下町」である。彼は24歳のときに最初のカメラを手に入れ、偶然が重なって『エル・グラフィコ』での仕事を始める。そして持ち前の冷静さと、息子リカルドにも受け継がれた「瞬間」を「絵」にまとめ上げる技術で名声を得る。
彼の名を有名にしたのは、1950年の自動車レースの写真だった。ハンドルを切り損なった車が土煙を上げ、前方部を地面に突き刺したように後部を高く上げた瞬間を、ドン・リカルドは逃さなかった。車の底部が土のコースに高く突き立った写真は、多くのファンに衝撃を与えた。