大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第81回「受け継がれるスポーツカメラマンの魂」(3)「真っ白なスカーフを巻き、骨とう品のようなカメラを携えた伝説的写真家『ドン・リカルド』」の画像
1977年、アルゼンチン・ワールドカップの広報担当事務局のメンバーと大住氏(右端)。残念ながらドン・リカルドは無関心だった (c)M.Tomikoshi
■【画像】リカルドの世界的スクープとなった写真が用いられたサッカー・マガジンの表紙

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、ゴール裏で座っている人たちの話。彼らが切り取る「芸術品」は、国境も時代をも超えていく。

■ある写真家を世に出した1枚

 リカルドの父、「ドン・リカルド」は1912年にブエノスアイレスの南、「バラッカ」と呼ばれる地区に生まれた。「ボカ」地区の西に隣接する「下町」である。彼は24歳のときに最初のカメラを手に入れ、偶然が重なって『エル・グラフィコ』での仕事を始める。そして持ち前の冷静さと、息子リカルドにも受け継がれた「瞬間」を「絵」にまとめ上げる技術で名声を得る。

 彼の名を有名にしたのは、1950年の自動車レースの写真だった。ハンドルを切り損なった車が土煙を上げ、前方部を地面に突き刺したように後部を高く上げた瞬間を、ドン・リカルドは逃さなかった。車の底部が土のコースに高く突き立った写真は、多くのファンに衝撃を与えた。

PHOTO GALLERY ■【画像】リカルドの世界的スクープとなった写真が用いられたサッカー・マガジンの表紙
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