もし観客が投げた物がビジターチームの選手に当たり、それで試合が中止されたら、没収試合となり、ブラジルの敗戦と判定される可能性が大だった。そうなれば、世界で唯一第1回大会から13大会連続でワールドカップ出場を果たし、そのうち3回もの大会で優勝を飾っているブラジルが初めて予選敗退となる。
■「決定的瞬間を撮った自信はある」
騒然とするなか、リカルド・アルフィエリ(当時39歳)は記者室に戻った。記者室も大騒ぎだった。この試合には、200人を超すカメラマンがはいっていた。そして試合中継を担当するグローボTVは、スタジアムに10数台のテレビカメラを設置していた。当時の試合中継としては通常よりはるかに多い台数である。しかしどの角度の映像も、「その瞬間」をとらえていなかった。
記者室でコーラを飲みながら、アルフィエリは古くからの友人でもあるブラジル人カメラマンのパウロ・テイシェイラと話していた。そして何げなく「ベンガラはロハスに当たっていないよ」と話した。
「なぜだ?」。パウロが目を丸くして聞いた。
「その瞬間を撮った。ベンガラはロハスに当たっていない」
「本当か?」
「自信はある」
パウロはあっという間に走り去り、南米サッカー連盟の役員を連れてきた。リカルドはあっという間に記者たちに囲まれた。