サッカーの世界は奥が深い。プレーを伝えるメディアの世界も、知的フィールドとなり得る。世界中のさまざまな文化が、そこで混じり合うからだ。蹴球放浪家・後藤健生が、サッカー界の表記について、一石を投じる。
■「クライフ」ではなく「クリュッフ」!?
キリアン・エンバぺ(KYLIAN MBAPPE)という選手がいます。フィジカル能力やスピードだけでなく、非常にクレバーな選手だと僕は思っています。
ここでは「エンバペ」と表記しましたが、そのほかにも「ンバッペ」、「エンバッペ」、「ムバッペ」……と、いろいろな表記が混在しているようです。
アフリカ人の名前にはアタマに「N」や「M」の音が来る場合が多いのです。発音としては「ン」になるのですが、日本語では単語のアタマに「ン」が来ることがないので、「エ」を付けて、「エン……」とか「エム……」と書いているわけです。かつてガンバ大阪などで活躍したカメルーンのパトリック・エンボマ(または「エムボマ」=PATRICK MBOMA)も、本当は「ンボマ」という発音になります。
こういうのは、各雑誌や新聞で話し合って表記を統一してくれるといいのですが、いったん決めてしまった表記を変更するのは難しいもののようです。
ヨハン・クライフがまだ有名になる前の1960年代後半には「クリュッフ」とか「クロイフ」とかいろいろな表記が混在していました。もっと古い話になると、1966年のワールドカップで得点王になったポルトガルの“黒豹”エウゼビオ(モザンビーク出身)は、日本では最初はドイツ語読みで「オイセビオ」と呼ばれ、その後英語的な「ユーセビオ」とも呼ばれていました。