「オフサイドルール、1世紀ぶりの革命」アーセン・ベンゲルの提言(1)「圧倒的な攻撃有利はファンに資するのか?」の画像
かつての名将ベンゲルの提案は、果たしてサッカーに資するか 写真:原悦生

 サッカーの世界が大きく変化するかもしれない。名古屋グランパスやアーセナルを率いたアーセン・ベンゲルが、オフサイドルールの変更を提案したのだ。解釈の違いを利用した、この「ベンゲル・ルール」は、果たして正しいものなのか。サッカー取材歴50年以上のベテランジャーナリスト・大住良之が検証する。

「2022年のワールドカップでは、オフサイドの判定が機械化される可能性が高い」

 10月13日、アーセン・ベンゲルの発言が世界に伝えられ、大きな波紋を生んだ。

 1995年から1996年にかけて名古屋グランパスを率い、その後長くアーセナル(イングランド)の監督を務めて歴史に残る成功を収めたベンゲルは、日本でも高い人気をもっている。彼は2019年以来国際サッカー連盟(FIFA)の「グローバル・フットボール・ディベロップメント」のチーフをしており、同時にサッカーのルールをつかさどる国際サッカー評議会(IFAB)のアドバイザリーメンバーのひとりでもある。

 オフサイド判定の機械化は昨年来話題になっており、実用化も近いと言われてきた。非常に複雑な要素を瞬時に総合し、それに人間味を加えて判定を下さなければならない主審の仕事の機械化をすることはまだまだ難しいが、オフサイドの判定は「味方がボールをプレーした瞬間」に後方から2人目の相手選手より相手ゴール方向に出ているかどうか」だけが問題であり、単純ではない要素はあるものの、現代のテクノロジーを駆使すれば機械判定は不可能ではないように思え、すでに実験も行われてきた。

 2018年にビデオ・アシスタントレフェリー(VAR)が正式に導入された後は、オフサイド判定の機械化も時間の問題とされてきた。だが公式な試験運用も経ずにオフサイド判定の機械化を導入するのは、大いに疑問だ。VARの場合、わずか2年間ではあったものの世界的に試験運用を行い、正式導入となった。しかしいきなり2018年ワールドカップで使ったことで大混乱を起こした(FIFAは「大成功」としてきたが、対応できる審判員養成の遅れなど、実際には大きな問題があった)。

 だがオフサイドについては、「機械判定」以上に大きな問題がある。ベンゲルがFIFAの役職についてすぐの2019年秋に明らかにした改正案である。

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