■小悪人との駆け引き
一応、取材申請は出してあったのですが、ADカードなどを受け取れるかどうか定かではありません。西ヨーロッパのスタジアムでは入場券売り場のような窓口でADカードや入場券を受け取ることができますが、南米などでは協会の事務所に行かなくてはいけないことも多いのです。パラグアイ協会からはなんの連絡もありませんでした。もし、ADカードなどを受け取れなかったら、ダフ屋でチケットを買って入らなくてはなりません。
というわけで、なるべく早くスタジアムに着きたかったのです。そのためには一刻も早く空港を出たいのですが、荷物もすぐに出てくるか分かりませんし、入国審査や税関の検査で時間がかかるかもしれません。「さて、どうしたものか? 事情を言ったら手続きを早くすませてくれるだろうか?」などと考えながら、僕は手荷物の出てくるターンテーブルのところまでやって来ました。
荷物は、それほど待たずに出てきました。いよいよ、入国審査場に向かいます。
その時、声をかけてきたのが一人の「小悪人」でした。
「あんさん、オイラは税関に顔が効くから付いといで。税関なんかノーチェックで出られますゼ」
もちろん、その後で「手数料をよこせ」などと言ってくるのでしょう。普通だったら、絶対に取り合うはずがありません。しかし、この時は一刻も早く空港を出たかったので、そいつを利用しようと思いました。
なるほど、入国審査も一発でスタンプを捺してもらえましたし、税関もノーチェック。あっという間に外に出ることができました。税関職員の裏ビジネスなのか、それともこの「小悪人」が税関職員にワイロを渡しているのか、そんなところなのでしょう。
さて、これからが勝負です。何を要求してくるのだろうか……。しかし、外へ出てもその「小悪人」は現金などを要求してきません。そして、黙って駐車場の方向に向かって歩いていきます。
「あ、自分の(または仲間の)車に乗せて高額なタクシー代を請求するか、どこかの店かなんかに連れて行くんだろう」と思った僕は、途中に一般のタクシー乗り場があったので、相手の隙を見てサッとタクシーに乗ってしまいました。
「小悪人」も、すぐに気づいて追いかけてきました。しかし、タクシーに乗ってしまえばこっちのものです。まあ、しかし、それではあまりに気の毒なので彼には米ドルで5ドルのチップを渡しました。
「小悪人」は「ヤレヤレ、これじゃタバコ代くらいにしかならんぜ」とグチっていましたっけ。