大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第77回「きみたちにはいつも僕たちがついている」(2)アレンジャーは「ザ・ビートルズと双璧のバンド」の画像
アンフィールドに掲げられるあの言葉 写真:Press Association/アフロ

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、「サポーターの聖歌」。世界中で親しまれるあの歌について、サッカージャーナリスト大住良之が掘り下げる。

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■アレンジャーはザ・ビートルズと双璧のバンド

 ここまでの話では、まだサッカーとは何の関係もない。この曲をサッカーと結びつけるのは、英国のひとつのバンドだった。当時、英国を代表する港町のリバプールでは、「マージービート(日本では『リバプールサウンド』)と呼ばれる若者のバンド音楽が隆盛しつつあった。先陣を切ったのが、1962年に最初のヒットを飛ばした「ザ・ビートルズ」だったが、彼らと双璧をなす人気バンドが「ジェリー・アンド・ザ・ペースメイカーズ」だった。

 彼らはビートルズを世に送り出した名マネジャーのブライアン・エプスタインと契約を結び、1963年から英国のヒットチャートで1位になる曲を送り出し始める。そして第3弾シングルとしてこの年の10月にリリースされたのが、ブロードウェイミュージカルからのカバー曲、『ユール・ネバー・ウォーク・アローン』だった。

 ミュージカルや1956年のハリウッドでの映画化では「聖歌」のように格調高く歌われていたこの曲を、バンドリーダーのジェリー・マーズデンはバラード風にアレンジし、情感たっぷりにうたい上げた。彼は少年時代に映画『回転木馬』を見て以来、この曲に魅せられていたのだ。

 この曲はすでにエルビス・プレスリーを始め数多くの有名歌手にカバーされていた。しかし『ジェリー・アンド・ザ・ペースメイカーズ版ユール・ネバー・ウォーク・アローン』は格別だった。たちまち大ヒットとなり、英国ヒットチャートの1位を4週連続で席巻した。

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