■国立競技場のクロスバーに残った激戦の痕跡

 そして試合終了直前、韓国のMF金基福(キム・キボク)が渾身のロングシュート。日本のGK横山謙三が左にジャンプしたが届かず、ボールを見送る。その瞬間、「カーン!」という、この場面にはそぐわない軽い金属音が鳴り響いた。シュートがクロスバーを直撃したのだ。当時の国立競技場のゴールポストは、「四角型」だった。クロスバーには、ボールが当たった真っ黒な跡が鮮やかに残った。試合は3-3のまま引き分けに終わり、続く南ベトナム戦を杉山隆一の得点で1-0で勝ちきった日本が「メキシコへの切符」を手にした。

 この予選後、再開された日本サッカーリーグの試合を見ると、国立競技場のメインスタンドから見て左側のゴールのクロスバーには、まだ黒々と金基福のシュート跡が残っていた。ゴールを洗わなかったのか、洗ったのに落ちなかったのか、それとも、「幸運のシンボル」として残そうとしたのか……。真っ白なクロスバーに残された黒い「ボール痕」は、しばらくそのままだった。

 あなたが主審で、試合前にクロスバーの一部が黒いことを発見したら、あなたはどうするだろうか……。

PHOTO GALLERY 【画像】94年W杯のロベルト・バッジョの決勝シーンほかゴールそれぞれにストーリーがある
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4