■鮮やかなゴール交換の手際に感服

 現在のJリーグでは、こうしたゴールポストに付属する支柱は一切なく、ネットはゴール後方に立てられた支柱から伸ばされたロープで後ろに引っぱられ、形よく張られている。しかしこの大会では、ゴールポストの角から後ろに伸びる支柱だけが取り付けられたタイプのゴールが使われていた。ネットを引っぱったことで支柱に想定外の方向の力が加わり、折れてしまったのだ。ベルナルは折れて落ちてきた支柱に直撃されたが、幸いなことに右手のヒジのあたりを少し打っただけで無事だった。

 メキシコの選手たちはたくましかった。まずネットにからんで落ちている2メートルほどの支柱を何人がかりかでネットから取り外す。だがネットが垂れ下がった状態では、GKのプレーが制限されてしまう恐れがある。するとFWのサグエがゴール裏に立っていたテレビ放送用の集音マイクと小型カメラを取り付けてあったポールにひっかけ、なんとかネットを「張った」状態に戻して試合を始めようとしたのだ。

 中断に待ち切れなくなったメキシコのサポーターがお得意の「ウェーブ」を始める。しかしそのとき、逆のゴール裏から新しいゴールポストが現れる。ネットを取り付けたままの状態だから、70~80キロはあるだろう。それを白いポロシャツ姿、よく太った男性がなんと2人で軽々とかつぎ、小走りに壊れたゴールのほうに向かってくる。そして壊れたゴールの回りには別の10人近くの係員が群がり、力まかせに壊れたゴールを引き抜くと、新しいゴールをすぽっとはめる。ネットをピッチに固定するのに少し手間取ったが、実に鮮やかな作業で、わずか7分間の中断で試合は再開された。半世紀以上サッカーを見てきたが、試合中にゴールの入れ替えを見たのは、このときいちどだけだった。

PHOTO GALLERY 【画像】94年W杯のロベルト・バッジョの決勝シーンほかゴールそれぞれにストーリーがある
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