■有望選手の流出は避けられない道
若いうちにヨーロッパに渡ってトップリーグで揉まれて彼らが成長していけば、それは日本代表の強化に直結し、また日本のサッカーにとっての大きな財産になる。
今夏のオリンピックを見ても、「やはり海外の難しい環境の中で強度の高い試合を経験することが選手の成長をもたらす」ということを実感させられた。
しかし、ここでわれわれは一つのジレンマに直面する。
日本のトップクラスの選手の多くが国を離れてしまうということは、つまりJリーグのレベルが下がり、とくにスター選手が流出することによってJリーグの人気を引き下げてしまうことにつながる。感覚的に言えば、数多くの才能溢れる若者たちがJリーグから去っていくのは寂しいことでもある。
想像してみよう。たとえば、吉田麻也や冨安健洋、遠藤航の守備陣を南野拓実や堂安律、久保建英らの攻撃陣が崩しにかかる……。そんな場面がJリーグで毎週のように見られたら、Jリーグの競技水準は格段にアップし、観客動員数も跳ね上がることだろう。「輸出超過国」としての悲哀とでも言うべきだろうか。
たとえば、ここ数年FIFAの男子ランキングで常にトップの座を争っているベルギーでは代表選手のほとんどが海外(そのほとんどが、まさに“対岸”にあるイングランド)で活躍している。ワールドカップなどの登録選手リストを見ると、ベルギーの場合、国内組はほとんどいないのだ。
スター選手の流出のおかげで国内リーグ(ジュピラーリーグ)の競技水準は残念ながらそれほど高くない。ジュピラーリーグは、いわば国際的な育成リーグ的存在となっており、各クラブは若い選手の個性を伸ばして海外クラブに売り込もうとしているのだ。
日本のJリーグも、これからも若手選手の海外移籍という流れがさらに拡大していったとすれば、将来はベルギーのような状態となってしまうかもしれない。
逆に「輸入超過国」の場合には、外国人選手が活躍することによって国内リーグで若手選手の出番が少なくなって、若手が育たなくなってしまうという危険がある。かつてイングランド代表が弱体化したことがあったが、その原因の一つが世界中のトップクラスの選手がプレミアリーグに流入したことによって、せっかくアカデミーで育った若手の出場機会が奪われたことだった。
外国人選手の輸入にせよ、また自国選手の流出にせよ、数多くの弊害がある。そのため、かつては外国籍選手の人数にはかなり厳格な制限があったし、外国人選手との契約が禁止されていた国もあった。だが、それも遠い昔……。今では、外国人選手を禁止することなど考えられないことだし、また、その国のサッカーの発展のためにも海外との交流は避けて通れない。